の少ないのは時刻のせいだろうが、これなら、いつかそのうちにスケッチでも描きに来るといいという気がした。
四、五日たってから、ある朝奮発して早起きして、電車が通い始めると絵具箱を提《さ》げて出かけた。何年ぶりかで久し振りに割引電車の赤い切符を手にした時に、それが自分の健康の回復を意味するシンボルのような気がした。御堀端《おほりばた》にかかった時に、桃色の曙光に染められた千代田城の櫓《やぐら》の白壁を見てもそんな気がした。
日比谷で下りて公園の入り口を見やった時に、これはいけないと思った。ねくたれた寝衣《ねまき》を着流したような人の行列がぞろぞろあの狭い入口を流れ込んでいた。草花のある広場へはいってみるといよいよ失望しなければならなかった。歯磨|楊枝《ようじ》をくわえた人、犬をひっぱっている人、写真機をあちらこちらに持ち廻って勝手に苦しんでいる人、それらの人の観察を享楽しているらしい人、そういう人達でこの美しい朝の広場はすっかり占領されていた。真中の芝生に鶴が一羽歩いているのを小さな黒犬が一|疋《ぴき》吠えついていた。
最も呑気《のんき》そうに見えるべきはずのこれらの人達が今日の私の
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