公園の中よりは反対の並み木道を行ったほうが私の好きな画題は多いらしく思われた。しかしせっかくここまで来て、名高いこの公園を一見しないのも、あまりに世間というものに申し訳がないと思って大きな鳥居をくぐってはいって行った。
いつのまにか宮の裏へ抜けると、かなり広い草原に高くそびえた松林があって、そこにさっきの女学生が隊を立てて集まっていた。遠くで見ると草花が咲いているようで美しかった。
腹がへったので旗亭《きてい》の一つにはいって昼飯を食った。時候はずれでそして休日でもないせいか他にお客は一人もなかった。わざわざ一人前の食膳《しょくぜん》をこしらえさせるのが気の毒なくらいであったが、しかし静かで落ち着いてたいへんに気持ちがよかった。小さな座敷の窓には柿《かき》の葉の黄ばんだのが蝋石《ろうせき》のような光沢を見せ、庭には赤いダーリアが燃えていた。一つとして絵にならないものはないように見えた。
飯を食いながら女中の話を聞くと、せんだってなんとかいう博士がこの公園を見に来て、これはたいへんにいい所だからこの形勝を保存しなければいけないという事になり、さらに裏手の丘までも公園の地域を拡張する
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