なか」に傍点]の中にいるときとよく似ているわ」とそばから小さな女の子が付け加えた。私は非常に驚いてこの子供の知識の出所を聞きただしてみると、それがお茶《ちゃ》の水《みず》で開かれたある展覧会で見たアルコールづけの標本から得たものである事がわかった。
 子供らはこの卵の三つか四つを日当たりのいい縁側の下の土に埋めておいた。数日たった後に掘ってみたらもう何もなかったそうである。ここにも大きな奇蹟《きせき》はあった。
 十日ほどにわたった芝刈りがやっと終わった。結果はあまり体裁のいいほうではなかった。刈り手の個性と刈り時の遅速とが芝生の上に不規則なまだらを描いていた。休まず働いている自然の手がその痕跡《こんせき》をぬぐい消すにはまだ幾日か待たなければならなかった。
 保養の目的が達せられたかどうかはわからなかった。たいしてからだにさわりもしなかった代わりに別段のいい効果があったとも思われぬ。そのような効果が、秤《はかり》や升《ます》ではかれるように判然とわかるものだったら、医師はさぞ喜びもしまた困る事だろうと思った。――ただ蜥蜴《とかげ》の卵というものを始めて実見したのがおそらくこの数日の仕
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