たい面積に掛かるほうが利口らしく思われた。しかしこのはえぎわの整理はきわめてめんどうで不愉快であって、見たところの効果の少ない割りの悪い仕事であった。
おしまいにはそんな事を考えている自分がばからしくなって来たので、いいかげんに、無責任に、だらしなく刈り始めた。
青白い刃が垂直に平行して密生した芝の針葉の影に動くたびにザックザックと気持ちのいい音と手ごたえがした。葉は根もとを切られてもやはり隣どうしもたれ合って密生したままに直立している。その底をくぐって進んで行く鋏《はさみ》の律動につれてムクムクと動いていた。鋏《はさみ》をあげて翻《かえ》すと切られた葉のかたまりはバラバラに砕けて横に飛び散った。刈ったあとには茶褐色《ちゃかっしょく》にやけた朽ち葉と根との網の上に、まっ白にもえた[#「もえた」に傍点]茎が、針を植えたように現われた。そして強い土の香がぷんと鼻にしみるように立ちのぼった。
無数の葉の一つ一つがきわめて迅速に相次いで切断されるために生ずる特殊な音はいろいろの事を思い出させた。理髪師の鋏《はさみ》が濃密な髪の一束一束を切って行く音にいつも一種の快感を味わっていた私は、今
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