の活動を生ずる脳の部分が少しばかり位置を異にしているのではないかと思われるが、しかしその活動の化学的物理的性質はほぼ同種類のものらしく想像される。それで、その活動に次いで起こる生理的な表情も本質的にはかなりによく似た笑いと泣きの形式をとって現われるのではないか。
こんな空想がいろいろ起こし得られるが、しかし、笑っているときと泣いているときとで大脳皮質その他の中枢における化学成分やイオン濃度の変化などを実験する事は困難であろうし、さればと言って泣きも笑いもしないねこや犬で試験するわけにも行かない。
それはとにかく、自分が泣いているとき、また笑いこけているとき、少しばかり気をかえて泣くこと笑うことの生理的意義を考えてみるのも全くむだなことではないかもしれないと思うので、物好きな読者にまれにはそうした実験を試みることをすすめたいと思う。
[#地から3字上げ](昭和十年五月、中央公論)
底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年11月20日第1刷発行
1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行
1997(平成9)年9月5日第65
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