いろいろの像や、高周波振動をする水晶板で生ずる粉の像などにもやはり共通な問題が潜んでいるらしい。
要するにこれらの問題の基礎には「粉」という特殊な物の特性に関する知識が重大な与件として要求されるにもかかわらず、それがほとんど全く欠乏している。そうしてただ現象の片側に過ぎない流体だけの運動をいくら論じてみても完全な解釈がつきそうにも思われない。粉状物質の堆積《たいせき》は、ガスでも、液でも、弾性体でもない別種のものであって、これに対して「粉体力学」があるはずである。近ごろ、土壌《どじょう》の力学に関連してだいぶこの方面が理論的にも実験的にも発達して来たようではあるが、それはしかしほとんど皆静力学的のものであって、「粉体の運動」に関する研究は皆無と言っても過言でない。この新しい力学の領域に進入する一つの端緒としても上記のごとき諸現象の研究は独自な重要意義をもつであろう。いずれにしても、そういう見地に立ってでなければいくら研究してみてもこれらの問題の全豹《ぜんぴょう》は明らかになりそうに思われない。
粉の輪で思い出すのは、蒸発皿《じょうはつざら》である種の塩類の溶液を煮詰めて蒸発させる時
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