確実なことはわからないようであるが、自分の観察の結果から判断できる範囲内では、ともかくもこの中央の穴から流れ出しまた流れ帰る水の流路を示すものらしく思われる。そうだとすると、これも上記現象のあるものと同部類に属すると考えられる。これは雪の代わりに他の可溶塩類を使った実験ができる見込みである。
唐紙《からかみ》などに水がついたあとにできる「しみ」が、どうかすると不規則な花形模様に広がることがある。また「もぐさ」を平たく板の上にはりつけておいて、その一点に点火すると、炎を上げない火が徐々に燃え広がる。その燃えて行く前面の形が不規則な花形である。これらの場合にはいずれも通有な一種の原理のようなものがあると思われる。
「理由欠乏の原理」あるいは「無知の原理」からすれば、これらの伝播《でんぱ》の前面は完全なる円形をなすはずであるが、実際の現象を注意して見ていると、円形になるほうがむしろ不思議なようにも思われて来る。たとえばアルコホルの沿面燃焼などはほとんど完全な円形な前面をもって進行するが、こういう場合は自然的変異を打ち消すような好都合の機巧が別に存在参加しているという特別の場合であるとも考え
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