は、間に合わない筋のものであろうと思われる。この点から考えてこの樹葉の紋の研究も決して閑人《ひまじん》のむだ仕事ではないであろう。
 縞瑪瑙《しまめのう》の縞がリーゼガング類似の現象によって生じたものだということになっているらしいが、あの不規則な縞がそれだけでうまく説明されるかどうか、ここにも疑問があると思われる。
 また少し脱線ではあるが雲紋竹《うんもんちく》と称して、竹の表面に褐色《かっしょく》の不規則な輪紋を呈したものがある。これは人工的加工でこしらえたものも多いようであるが、もとはやはり天然の植物|黴菌《ばいきん》か何かでできたものがあるのではないかと思われる。そう言えば培養された黴菌の領土の型式の中にも多少類似のものがあったように思うが、これも何かの思い違いかもしれない。しかしそういういろいろな生物学的方面における形態的類型にも注意を怠らないようにしたいものだと思う。案外、そういう方面から有益な手掛かりを得られないとも限らないからである。
 樹木の年輪や、魚類の耳石の年輪や、また貝がらの輪状構造などは一見明白な理由によって説明されるようではあるが、少し詳細に立ち入って考えると
前へ 次へ
全27ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング