き葉は、やはり今でも日本にあるにはあるのである。精霊棚《しょうりょうだな》を設けて亡魂を迎える人はやはり今でもあるのである。これがある限り日本はやはり日本である。そんな事を話しながら一九三三年の銀座を歩くのであった。

     三 熱帯魚(その一)

 百貨店の花卉部《かきぶ》に熱帯魚を養ったガラス張りの水槽《すいそう》が並んでいる。暑いある日のことである。どう見ても金持ちらしい五十格好のあぶらぎった顔をした一人の顧客が、若い店員を相手にして何か話している。水槽につけた紙札に魚の名と値段が書いてある。目高《めだか》ぐらいの魚が一尾二十五円もするのである。金持ちらしい客は「フム、これは安いねえ」「安いんだねえ」と繰り返しながらしきりに感心している。若い店員は心持ち顔を長くしたようであったが、「はあ、……比較的に」と答えた。そうして、ずうっと胸をそらしたのであった。

     四 熱帯魚(その二)

 いろいろな熱帯魚をよく見ていると、種類によってやはり一挙一動にそれぞれの特徴があるように思われて来る。それを些細《ささい》に観察していると三十分ぐらいの時間をつぶすのははなはだ容易である
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