詩と官能
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)煙草《たばこ》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一本|煙草《たばこ》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和十年二月、渋柿)
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一
清楚《せいそ》な感じのする食堂で窓から降りそそぐ正午の空の光を浴びながらひとり静かに食事をして最後にサーヴされたコーヒーに砂糖をそっと入れ、さじでゆるやかにかき交ぜておいて一口だけすする。それから上着の右のかくしから一本|煙草《たばこ》を出して軽くくわえる。それからチョッキのかくしからライターをぬき出して顔の正面の「明視の距離」に持って来ておいてパチリと火ぶたを切る。すると小さな炎が明るい部屋《へや》の陽光にけおされて鈍く透明にともる。その薄明の中に、きわめて細かい星くずのような点々が燦爛《さんらん》として青白く輝く、輝いたかと思った瞬間にはもう消えてしまっている。
この星のような光を見る瞬間に突然不思議な幻覚に襲われることがしばしばある。それはちょっと言葉で表わすことのむつ
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