糸車
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)袖《そで》なし羽織

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)内国産|棉実《めんじつ》千トン弱

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)その※[#「くさかんむり/朔」、第3水準1−91−15]《さく》が

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)キュル/\/\
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 祖母は文化十二年(一八一五)生まれで明治二十二年(一八八九)自分が十二歳の歳末に病没した。この祖母の「思い出の画像」の数々のうちで、いちばん自分に親しみとなつかしみを感じさせるのは、昔のわが家のすすけた茶の間で、糸車を回している袖《そで》なし羽織を着た老媼《ろうおう》の姿である。紋付きを着て撮《と》った写真や、それをモデルにしてかいた油絵などを見ても、なんだかほんとうの祖母らしく思われないが、ただ記憶の印象だけに残っているこの「糸車の祖母像」は没後四十六年の今日でも実に驚くべき鮮明さをもって随時に眼前
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