ただ一次元的、線的のもののように考えるあまりに単純な基礎仮定から出発した言語学ではこの問題は説明される見込みはない。たとえば自分がかつて提議したような統計的方法でも、少なくも一つの試みとして試みなければならないと思う。上記の諸例はそういう方法を試みるであろう場合に必要な非常に多量な材料の中の二三の例として数えられるべきものであろうと思う。
もし許さるるならば、時々こういう材料の断片を当誌の余白を借りて後日のために記録しておきたいと思う。[#地から2字上げ](昭和七年十二月、鉄塔)
二
錨《いかり》と怒《いか》り、いずれも「イカリ」である。ところが英語の anchor と anger が、日本人から見ればやはり互いに似ている。「アンカー」と「アンガー」である。
anchor はラチンの anchara でまたギリシアのアンキユラで「曲がった鈎《かぎ》」であり、従ってまた英の angle とも関係しているらしい。ペルシアでは 〔la_ngar〕 である。サンスクリトの 〔la_ngala〕 は鋤《すき》であるがしかし錨のような意味もあるらしい。同時に membrum vir
前へ
次へ
全25ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング