換すれば「タマ」になる。
 髑髏《どくろ》を「されかうべ」と言う。この「され」は「曝《さ》れ」かもしれないが、ペルシア語の sar は頭である。
「唐児《からこ》わげ」を「からわ」という。日本紀《にほんぎ》に角子を「あげまきからわ」と訓してあるそうで、もしかすると「からわ」また「からは」は初めには頭を意味したかもしれない。とにかくロシアの golova, glava(セルボ・クロアチアも同じ)、チェッコの hlava, ズールの inhloko(in は接頭語)等いずれも「カラワ」と音が近い。
 またこれらは子音転換《メタテシス》によれば前述のkhrの群になるのである。
 冠《かんむり》の「イソ」というのは俚言集覧《りげんしゅうらん》には「額より頭上をおおう所を言う」とあるが、シンハリース語の isa は頭である。ハンガリアでは esz がそうである。もっとも「イソ」はまた冠の縁や楽器の縁辺でもある。海の縁でもあるから、頭と比較するのは無理かもしれない。しかし「上」は「ほとり」と訓《よ》まれることがあるのである。
「かうべ」の群中へ、かりに「神《かみ》」と「上《かみ》」も「髪《かみ》」も入れておく。
 朝鮮語「モーリ(頭)」は「つむり」の「むり」と比較される。「つ」はわからない。蒙古《もうこ》カルカ語の tologai はタミール語の 〔tala:i〕 に通じる。
「かしら」に似たものがちょっと見つからなかった。ところがLの capillus はもとは cap(頭)の dim. だそうで caput や、ギリシアの「ケファレ」も同じものである。そうして、この「カピラ」は「毛髪」の意に使われている。これが「カヒラ」を経て「カシラ」になりうるのである。言海によると「カシラ」は「髪」の意にも使われているからちょうど勘定が合うのである。そうすると「かしら」も結局「かむり」「かぶり」の群に属する。
[#地から2字上げ](昭和八年八月、鉄塔)



底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店
   1961(昭和36)年4月7日第1刷発行
初出:「鉄塔」
   1932(昭和7)年12月1日
   1933(昭和8)年4月1日、7月1日、8月1日
※初出時の署名は「吉村冬彦」です。
入力:Cyobirin
校正:松永正敏
2006年7月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイ
前へ 次へ
全13ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング