窿宴eンの hiems(冬)やギリシアの cheimon(冬)やまたペルシア語の sarmai(寒い)にも似ている。フィンランド語の kuura(霜)は日本の「こほり」の音便読みに近い。英語の cold は冷肉(コールミート)のコールである。氷《こお》るに近い。朝鮮語で冬は「キョーウル」である。ヘブライ語の寒さも「コール」である。
Winter は日本語の「いてる」とどこか似ているとも言われよう。
フランス語の冬 hiver はラテンの hibernum であろうがこれを「冷える」と比べてみるのも一興である。
日本の山には「何々やま」と「何々だけ」とがある。アラビアの山 jabal ペルシアの山 jebel は一見「ヤマ」と縁が遠いようであるがjがyになりbがmになる例は多いようであるから、それほど無関係ではない。(邪はジャでありヤである。馬はバでありマである)
トルコ語の山 dagh は「だけ」に似ている。アジア中部には tagh のついた山がいろいろある。ターグは「たうげ」に似ている。
ドイツ語の屋根 Dach は上記の dagh に通じる。「棟《むね》」が「峰《みね》」に通ずるのと類する。
アイヌの「ヌプリ」は「登り」に通じ、山頂を意味する「タプカ」も「峠(タウゲ)」に少し似ている。峠が「たむけ」の音便だとの説は受け取れない。
山(シャン、サン)の仲間はちょっと見当たらないが、しかしアイヌの「シン」は地や陸を意味すると同時にまた「山地」(平地に対する)をも意味するそうである。これに多数を意味する接尾音をつけた「シンヌ」はたくさんな山地でこれが「信濃《しなの》」に似るなどちょっとおもしろいお慰みである。
アイヌ語「シリ」はいろいろの意味があるがその中で陸地を意味する場合もある。またこれに他の語が結びついた時には「シリ」が山を意味する事もあるらしい。この「シリ」が梵語《ぼんご》の山「ギリ」に通じる可能性がある。
この「ギリ」は露語の「ゴーラ」に縁がありそうに見える。箱根《はこね》の強羅《ごうら》を思い出させる。また信州《しんしゅう》に「ゴーロ」という山名があり、高井富士《たかいふじ》の一部にも「ゴーロ」という地名がある。上田《うえだ》地方方言で「ゴーロ」は石地の意だそうである。土佐の山にも「ナカギリ」という地名がある。
日本の山名に「カラ」「
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