議会の印象
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)手捜《てさぐ》りに拾い出した

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十三年)
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 去年の十月だったか、十一月だったか、それさえどうしても思い出せない程にぼんやりした薄暗がりの記憶の中から、やっと手捜《てさぐ》りに拾い出した、きれぎれの印象を書くのであるから、これを事実と云えば、ある意味では、やはり一種の事実であるが、またある意味では、いつか見た事のある悪夢の記録と同じ種類のものであって、決して厳密な意味の事実ではない。
 ある朝の事である。起きた時から何となく頭の工合がよくなくって、軽い一種の不満のようなものの塊が、からだの中のどこかに潜んでいるような心持であった。後になって考えてみると、これは、全くその日の天気のせいであったらしい。
 そこへ、NT君が訪ねて来た。議会の傍聴に連れて行ってやろうというのである。自動車をそこに待たしてあるという。
 あまり自慢にならない事であるが、自分はまだこの年までつい一度も帝国議会というものを見た事がなかった。
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