し、空間の中に静止する一点の位置を決定するだけでも三つの数字が必要である。百個の点の集団なら三百の数字が入用になる。物理的体系の「自由度《デグリー・オブ・フリーダム》」の増加とともにその状態を指定するに必要な尺度の読み取りの数もいくらでも増加する。近ごろよく「学問の自由」というようなことが議論されるようであるが、この自由なるものの自由度がいまだ数字できめられない限り、精密科学的には全く無意味な言葉である。百年議論してもこの自由の限界は数字では決められそうもない。
これに反してここに紹介した各種の珍奇なレコードは、ともかくもそれぞれ一つの「自由度」に対する数量的レコードへのおぼつかない試みの第一歩として、それぞれに固有ななんらかの文化的な意味をもつものだと思われるのである。
三原山《みはらやま》の投身自殺でも火口の深さが千何百尺と数字が決まれば、やはり火口投身者の中での墜落高度のレコードを作ることになるかもしれない。しかし単に墜落高度というだけのレコードならば飛行機|搭乗者《とうじょうしゃ》のほうにもっと大きい数字がありそうである。
レコードでもあまりありがたくないのがある。国辱的
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