である。
 ウィーンのある男は厳重なる検閲のもとにウインドボイテル(軽焼きまんじゅうの類)を六十九個平らげた。彼の敵手は決勝まぎわに腹痛を起こして惜敗したと伝えられている。
 こういう種類の競技には登場者の体重や身長を考慮した上で勝敗をきめるほうが合理的であるようにも思われるが、そうしないところを見ると結局強いもの勝ちの世の中である。
 食いしんぼうのレコード保有者でも少し風変わりなのは、パリのムシウ・シエールである。この人は一年間に宴会に出席すること四百回、しかも毎回欠かさずに卓上演説をしてのけたそうである。わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもなる仕事だという人があると聞いてはいるが、三百六十五日間に四百回の宴会はどうかと思われる。それにしても、この四百回の会食を遂げたという事実の真実性を証明するための審査ははなはだめんどうであったろうと想像される。
 シガー一本をできるだけゆっくり時間をかけて吸うという競技で優勝の栄冠を獲たのはドイツ人何某であった。すなわち、五時間と十七分というレコードを得たのである。遺憾ながらそのシガーの大きさや重量や当日の気温湿度気圧等の記
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング