げられよ。大地にわが体の落ち着くまでに敵を仕留むるの覚悟をせよ」とかいう文句がある。空中殺人法を説いたものである。現代では競技会でメダルやカップやレコードを仕留めるだけが目的の空中曲技も、昔の武士は生命のやりとり空中組み打ちの予行練習として行なったものと見える。
 ポアンカレ著「科学者と詩人」の訳本を見ていたら、「学者は普通に、徐々にしか真理を征服しないものであります。(中略)実際家は、そのように長くかからなければわからぬ真理はほとんど意に介しません。なぜなら、そのような真理は、実行の機が過ぎ去って、間に合わなくなってからわかって来るものだからです。(下略)」
 なるほど学者の仕事はとかくけんか過ぎての棒ちぎりになる場合が普通である。ダイナモができてからそれが発電する理由が証明されたり、飛行機が飛んでから、それが飛べる必然性が闡明《せんめい》されたりする。大地震が襲来して数万の生霊が消散した後にその地震が当然来るはずであった事が論ぜられたりするのは事実である。
 しかし必ずしもそうではないようである。学者がその仕事を「仕上げる」には長い月日を要するのは普通であるが、仕事をつかまえ、「仕
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