銀座アルプス
寺田寅彦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)闇《やみ》の中に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)岸田|劉生《りゅうせい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二分ダーシ、1−3−92]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)シャン/\/\と雪ぞりの鈴が聞こえ
−−

 幼時の記憶の闇《やみ》の中に、ところどころぽうっと明るく照らし出されて、たとえば映画の一断片のように、そこだけはきわめてはっきりしていながら、その前後が全く消えてしまった、そういう部分がいくつか保存されて残っている。そういう夢幻のような映像の中に現われた自分の幼時の姿を現実のこの自分と直接に結びつけて考えることは存外むつかしい。それは自分のようでもあり、そうでないようでもある。自分と密接な関係のあることは確実であるが、現在の自分とのつながりがすっかり闇の中に没している。その、絶えているかつながっているかわからないよう
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