で想像したような人工音製造の実験を、鳥自身も人間も知らない間に、ちゃんと実行しているのではないかということである。
この想像のテストは前記の人工音合成の実験よりはずっと簡単である。すなわち、鳥の「モシモシカメヨ」と人間のそれとのレコードを分析し、比較するだけの手数でいずれとも決定されるからである。
こうした研究の結果いかんによっては、ほととぎすの声を「テッペンカケタカ」と聞いたり、ほおじろのさえずりを「一筆啓上仕候《いっぴつけいじょうつかまつりそろ》」と聞いたりすることが、うっかりは非科学的だと言って笑われないことになるかもしれない。ともかくも、人間の音声に翻訳した鳥の鳴き声と、本物とのレコードをたんねんに比較してみるという研究もそれほどつまらない仕事ではないであろうと思われるのである。
[#地から3字上げ](昭和九年十月、科学知識)
底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年11月20日第1刷発行
1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行
1993(平成5)年10月15日第61刷発行
※また、底本の誤記等
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