さて、このように縮小された各学者の眼界の領域はほとんど十人十色であって、それらのおのおのの領域はある部分では互いに重合して共通していても、残りの部分ではみんな少しずつちがっているわけである。しかもそれらの人々が独創的であり見識家であるほど、その差別の程度も甚だしいのである。
ただ、一番始末のいい場合は、学問の本山であるところの西洋の第一流の大家達の統括の下に開拓され発達させられた一つの明確な区劃内に限られた部門の中で、かの地の誰やかれが既にかなりまでつつき廻した問題の一方面に若干の確実な貢献をしたというような種類の仕事が学位論文として提出された場合である。こういう場合にその同じ部門の専門家が審査員になっていれば、当該方面の文献も手近に揃っており、従って提出された仕事がその方面の領域で占める地位とその幅員も判断されやすい。しかし、こういう代表的なアカデミックな仕事ですらも審査員の眼界があまりに狭くてその部門のその問題の他の方面にまで眼が行届かないような場合には、そこに提出された論文のせっかくの狙い所が正常の価値を認められずに軽視されることも実際にあり得るのである。またこれと反対に、その
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