化として現われるはずである。たとえば地球が全部大洋かあるいは陸地におおわれていたらこういう原因から起こる一日じゅうの弛張《しちょう》が純粋に現われるかもしれないが、日本の沿岸のような所では地方的な海陸風に相当するものが、各季節を通じてあまりに著しく発達して、上のような地球に関するものがほとんど全くおおい隠されているように見える。
要するに日本の沿岸ではいかなる季節でも、風の日々変化するのを分析すると、海陸風に相当する風の弛張がかなり著しく認められるが、実際にいわゆる海陸風として現われるのは、季節風の弱い時季か、あるいは特別な気圧配置のために季節風が阻止された場合である。
それで、各地方でこういう風の日々変化の習性に通じていれば、その変化の異常から天気の趨勢《すうせい》を知る手がかりが得られるわけである。たとえば東京で夏の夕方風がなげば、それは南がかった風の反対するような気圧傾度が正常の傾度に干渉している、すなわち太平洋のほうの気圧が比較的低下した、と考えていい場合が多いだろうと思われる。またたとえば広島へんで夏の夕方相当に著しい風が吹けばその風の方向から、地方的影響を除いた一般的気
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