向きが反対になる。この二層の境界面の高さは、場合により時刻によっていろいろになるわけであるが、通例海面から数百メートル程度のものである。航空者特に自由気球にでも乗る人はこの事実を忘れてはならない。
海陸風の原因が以上のとおりであるから、この風は昼間日照が強く、夜間空が晴れて地面からの輻射《ふくしゃ》が妨げられない時に最もよく発達する。これに反して曇天では、輻射の関係で上記の原因が充分に発達しない、のみならずそれが低気圧などの近づいた場合だと、この影響として現われる風がこのような地方的の風に干渉していわゆる海陸風の純粋な発達を隠してしまう。しかし、そのような場合でも詳細に調べてみると、やはり海陸風に相応する風の弛張《しちょう》が認められない事はないのである。
夕なぎというのは昼間の海風から夜間の陸風に移り変わる中間に、一時無風の状態を経過する、その時をさして言うのである。従って夕なぎが完全に行なわれるためには、低気圧による風や、また季節風のごときが邪魔をしない事が必要条件である。
夏期|瀬戸内海《せとないかい》地方で特に夕なぎが著しいのはどういうわけかと思って調べてみると、瀬戸内海
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