普通のデパートメントストアの商品のような感じがしないでもない。これに反して以前の窮屈な室へはいった時には、なんとなく学者の私有文庫を見せてもらうような気がした。これは、ある友人が評したように、つまり自分の頭が旧式であって、書物とその内容を普通の商品と同様に見なしうるほどに現代化し得ないためかもしれない。
いろいろの理由からいわゆる散歩という事に興味を持たない自分の日曜日の生活はほとんど型にはまったように単調なものである。昼飯をすませて少し休息すると、わずかばかりの紙幣を財布《さいふ》に入れて出かける。三田《みた》行きの電車を大手町《おおてまち》で乗り換えたり、あるいはそこから歩いたりして日本橋《にほんばし》の四つ角《かど》まで行く。白木屋《しろきや》に絵の展覧会でもあるとはいって見る事もあるが、大概はすぐに丸善へ行く。別にどういう本を買うあてがあるわけではないが、ただ何かしら久しぶりで仲のいい友だちを尋ねて行く時のような漠然《ばくぜん》とした期待をいだいて正面の扉《とびら》を押しあける。
正面をはいった右側に西洋小間物を売る区画があるが自分はついぞここをのぞいて見た事がない。どうい
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