蛯ォな展覧会に出ない人たちの作品まで見られる便利がある、そして入場は無料である。
ここではまたいろいろの新美術品が陳列されている。陶磁器漆器鋳物その他大概のものはある。ここも今代の工芸美術の標本でありまた一般の趣味|好尚《こうしょう》の代表である。なんでもどちらかと言えばあらのない、すべっこい無疵《むきず》なものばかりである。いつかここでたいへんおもしろいと思う花瓶《かびん》を見つけてついでのあるたびにのぞいて見た。それは少し薄ぎたないようなものであったせいか、長い間買い手もつかずそこに陳列されていた。これと始めのうちに同居していたたくさんの花瓶はだんだんに入り代わって行くのに、これだけは木守りの渋柿《しぶがき》のように残っていた。ところがこのあいだ行って見ると、もうこの自分の好きな花瓶も見えなくなっていた。なんだかやっと安心したような気がしたがはたして売れたのか、あるいはあまり売れないのでどうにか処分されたのか、それもわからないと思った。
六階にあったいわゆる空中庭園は、近ごろ取り払われて、今ではおもちゃの陳列所になっている。一階から五階までの間に群がっているたくさんの人の皮膚や
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