観点と距離
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浜町《はまちょう》の明治座

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年八月『文芸春秋』)
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 ある日、浜町《はまちょう》の明治座の屋上から上野公園を眺めていたとき妙な事実に気がついた。それは上野の科学博物館とその裏側にある帝国学士院とが意外に遠く離れて見えるということである。この二つの建築物の前を月に一度くらいは通るので、近くで見たときのこの二つの建物の距離というものについてはかなりに正確な概念をもっている、少なくもそのつもりでいたのであるが、今度はじめて約三キロメートル半の遠方から眺めてみると、この先入概念がすっかり裏切られてしまって、もう一度改めて科学博物館対帝国学士院の空間的関係というものを考え直さなければならないことになってしまった。
 どうしてこういう空間的認識の差違が起こるかと考えてみたがよく分らない。色々な原因があるであろうが、その一つとしてはあるいは次のようなことがありはしないか。すなわち、接近して仰向いて見る時には横幅に対して高
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