べき見ものであるが山の神様の手からただひとつまみの雪がこぼれただけである。
 大きな雲の塊《かたまり》が登山者に迫って来るのを見ていたら、その雲が何かものを言っているような気がして来た。その言っていることがはっきりわかったような気がしたが、しかし、それはやはり人間の言葉ではどうしても言い現わせないものであった。
 ぜひ一遍見て来たまえ。そうしてこの「雲の言葉」を句にしてくれたまえ。[#地から1字上げ](昭和九年四月、渋柿)
[#改ページ]

   曙町より(二十)


 有名なエノケンをはじめて映画で見た。これまで写真を見ただけで、どうしても実物の芝居を見る気がしなかったが、映画で見ると予想したほどに不愉快ではなく、やはりときどきは笑わされてしまった。
 彼にはやはりどこかに「強い」ところがあると見える。それが少なくも彼としての「成効」の原因であろう。とにかく見物が大丈夫笑ってくれるという自信をもっているらしい。
 自信のないことを自覚している演芸ほど見ていて苦しいものはない。しかし、そうかと言って、自信するだけの客観的内容のないただ主観的なだけの自信をふり回す芸も困ることはもちろんで
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