界で可能なすべての事が人間の世界でも同程度に可能だというような錯覚を起こすのは自然の傾向である。
 しかしまた、現在映画の世界にのみ存する事象が将来現世界に可能とならないという証拠もないとすると、現在の映画の夢は将来の現実の実相を導き出す先駆となり前兆とならないとも限らない。ここに重大な問題の骨子があるような気がするのである。これはぜひともしかるべき人々の慎重な考究にまつべきではないかと思う。
[#地から3字上げ](昭和九年十月、映画評論)



底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」岩波文庫、岩波書店
   1948(昭和23)年11月20日第1刷発行
   1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行
   1997(平成9)年9月5日第65刷発行
※「フラッシ」と「フラッシュ」の混在は、底本の通りとしました。
入力:(株)モモ
校正:かとうかおり
2003年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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