界が恐ろしく狭い空間に凝縮されて来る。そうして人類文化の進歩の急速な足音を聞いているような気もする。
「ザンバ」のごとき自然描写を主題にしたものでも、おそらく映画製作者の意識には上らなかったような些事《さじ》で、かえって最も強くわれわれの心を引くものが少なくない。たとえば獅子《しし》やジラフやゼブラそのものの生活姿態のおもしろいことはもちろんであるが、その周囲の環境ならびにその環境との関係が意外な新しい知識と興味を呼び起こす場合がはなはだ多い。たとえばライオンと風になびく草原との取り合わせなどがそうである。このいかにも水に渇したように風にそよぐ草によって始めてほんとうに生きたアフリカのライオンが眼前に現われる。ジラフの奇妙な足取りはそれ自身にもおもしろいが、その背景の珍しい矮樹林《わいじゅりん》によって始めてこの動物の全生命が見られる。驚いて川に飛び込む鰐《わに》は、その飛び込む前に安息している川岸の石原と茂みによって一段の腥気《せいき》を添える。これがないくらいならわれわれは動物園で満足してよいわけである。それだからわれわれはもう少し充分にこれらの背景と環境とを見せてもらいたいのであ
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