映画の律動的編成についても言われるのである。そうして序破急と言いあるいは起承転結と称する東洋的モンタージュ手法がことごとく映画編集の律動的原理の中にその同型《ファクシミレ》を見いだすのである。
 要するにこれらのモンタージュの要訣《ようけつ》は、二つの心像の識閾《しきいき》の下に隠れた潜在意識的な領域の触接作用によってそこに二つのものの「化合物」にも比較さるべき新しいものを生ずるということである。
 識閾の上層だけでつながったものは、つまり一つの静的な像である。いわゆる付き過ぎた連句は、結局一句を二つに分けただけで「歩み」はない。同様に映画においても、たとえば単調なる「チャンバラ」の場面はいくら続いても、それは結局ただ一つのショットとしての効果しかない。これに反してたとえ識閾の上では単調な画面を繰り返していても、その底を流れる情緒の加速運動があれば観客は知らず知らずつり込まれ引きずられて行く。たとえば「パリの屋根の下」で町の歌い手が手風琴をひいて歌っている。その歌い手と聴衆が繰り返し繰り返し映写される。しかしその巧妙な律動的なモンタージュによって観衆の心の中の奥底には一つの葛藤《かっとう》がだんだん発展し高調されて行くのである。また同じ映画でダンス場における踊る主人公とこれをねらう悪漢との交互的律動的モンタージュもこれと全く同様である。これは二つの画面の接触作用によって観客の心に生ずる反応作用をその自然のリズムに従って誘導して行くのである。それでこのモンタージュのリズムが観客の期待のリズムに共鳴するときにはじめて最大の効果を収めうるので、これは音楽の場合と全く同様である。
 このように、映画の画面の連結と連句の句間の連結とは意識の水準面の下で行なわれるときにはじめて力学的な意味をもつのである。たとえば水面に浮かんでいる睡蓮《すいれん》の花が一見ぱらぱらに散らばっているようでも水の底では一つの根につながっているようなものである。
 一つ一つの意識的な具象からは識閾《しきいき》の下に無数の根を引いており、その根の一つ一つはまた他のたくさんの具象の根と連結されている。かようにして天地間の万象は複雑きわまる網目によって無限多義的に連関している。甲から乙に移る連絡道路だけでも無限に多数に存する。それらの通路の中には国道もあり間道もあり、また人々によって通い慣れた道と、そうでないのとがある。それで今甲の影像の次に乙の影像を示された観客はその瞬間においてその観客の通い慣れた甲乙間の通路の心像を電光に照らされるごとく認識するのであろう。
 それで映画や連句のモンタージュが普遍的な効果を収めうるためには、作者が示そうとする「通路」が国道であり県道であることが必要である。そうでないときは作者の一人合点《ひとりがてん》に陥って一般鑑賞者の理解を得ることは困難である。

     映画と夢

 以上のごとく考えて来るとわれわれは自然に映画と夢との比較を暗示される。
 夢の中に現われる雑多な心像は一見はなはだ突飛なものでなんの連絡もない断片の無機的系列に過ぎないようであるが、精神分析学者の説くところによると、それらの断片をそれの象徴する潜在的内容に翻訳すれば、そういう夢はちゃんとした有機的な文章になり、そうして恐るべきわが内部生活の秘密を赤裸々に暴露するものである。ただ夢の場合にはこれらの「夢内容」を表わす象徴としての顕在像が普遍的のものでなく人々の個人的な歴史によってのみ規定されたものであるから読み取ることが困難だというのである。
 映画や連句の場合においても、一つ一つの顕在的な映像の底にかくれた潜在的内容が多量に存在している。モンタージュの秘密は、この潜在的内容の言葉で文章をつづって行く方法にあるとも言われる。
 夢の心理と連句の心理の比較についてはかつて雑誌「渋柿《しぶがき》」誌上で詳論したからここでは略する。そうしてそこで論じたことはほとんどそのままにまた映画のモンタージュに適用してもさしつかえないと思うのである。それはとにかく自分がこの論を出した後に「クローズ・アップ」第七巻第二号を見ていたらヒューズ(C. J. Pennethorne Hughes)という人が映画と夢との比較を論じているのを見て興味を引かれた。夢に色彩のないこと、羊の群れが見る間に兵隊の群れに変わったりすることなどが述べてある。それから、夢が阻止された願望の実現となるように、映画の観客は映画を見ることにより、実際には到底なれない百万長者になり、できない恋をしたり、不可能事をしとげるというようなことも言っている。これもおもしろい見方である。映画の大衆的であるゆえんは最も密接にこの点につながっているという事は疑いもないことである。
 映画と連句とが個々の二つの断片の連結のモンタ
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