が悪そうであるが、敵が自分の首筋をねらって来る場合にはかえってこのほうが有利であるかもしれない。
鰐《わに》と虎とのけんかも変わっている。両方でかみ合ったままで、ぐるりぐるりと腹を返して体軸のまわりに回転する。鰐が虎をねじっているのか、虎が鰐をねじっているのか見たところではどっちだかわからない。しかし、あのぐるりぐるりと腹を返して引っくり返る無気味さは、やはり、虎よりも鰐の属性にふさわしく思われるものである。
大蛇と鰐との闘争も珍しい見ものであるが、なにぶんにも水の飛沫《ひまつ》がはげしくて一度見せられたくらいでは詳細な闘争方法が識別できにくいのが残念である。
これに反して虎《とら》と大蛇《だいじゃ》との取り組みは実にあざやかである。蛇《へび》の闘法は人間にはちょっとまねができず、想像することもできない方法である。客観的認識はできても主観的にはリアライズすることはできない種類のものである。虎もだいぶ他の相手とは見当がちがうので閉口当惑のていである。蛇が虎のからだにじりじりと巻きつく速度が意外にのろい、それだけに無気味さが深刻である。蛇が蛇自身の目では見渡せないあの長いからだを、う
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