には、磁力計の頂上に付いている管が共鳴してその頭が少なくも数ミリほど振動するのを明らかに認める事ができたし、また山中で聞いた時は立っている靴《くつ》の底に明らかにきわめて短週期の震動を感じた。これだけの振動があれば、適当な境界条件の下に水面のさざ波を起こしうるはずであるし、また水中の魚類の耳石等にもこれを感じなければならないわけである。もっとも、魚類がこの種の短週期弾性波に対してどう反応するかについて自分はあまりよく知らないが、これだけの振動に全然無感覚であろうとは想像し難い。
 地鳴りの現象については、わが国でもすでに大森《おおもり》博士らによっていろいろ研究された文献がある。そのほんとうの原因的機巧はまだよくわからないが、要するに物理的には全くただ小規模の地震であって、それが小局部にかつ多くは地殻《ちかく》表層《ひょうそう》に近く起こるというに過ぎないであろうと判断される。
 もし「孕《はらみ》のジャン」として知られた記録どおりの現象が、実際にあったものと仮定し、またこれが筑波地方《つくばちほう》の地鳴りと同一系統の地球物理学的現象であると仮定すると、それから多少興味のある地震学上
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