者の方則については心理学のほうから若干の根拠は供給されるとしても、後者に関する資料はほとんどすべての場合において永久に失われている。従ってほんとうに科学的な推定を下すということはほとんど望み難いことである。ただできうる唯一の方法としては、有るだけの材料から、科学的に合理的な一つの「可能性」を指摘するに過ぎない。もっともこの可能性が非常に多様であれば、その中の二三を指摘してみても、それは結局なんらの価値もない漫談となってしまうであろうが、多くの場合に必ずしもそうとは限らない。ことにある一種の怪異に関する記録が豊富にあればあるほど、この可能性の範囲はかなりまで押しせばめられる。従ってやや「もっともらしい仮説」というまでには漕《こ》ぎつけられる見込みがあるのである。そこまで行けば、それはともかくも一つの仮説として存在する価値を認めなければならず、また実際科学者たちにある暗示を提供するだけの効果をもつ事も有りうるであろうと思われる。
 そういう意味で自分が従来多少興味をもっている怪異が若干ある。しかしこれを正当に研究するためにまず少なくも一通りは関係文献を古書の中から拾い集めてかかる必要がある
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