いと思う歌を百首くらいずつも選んで、それらの材料を一纏めにして統計的に前述の波数や波長の分配を調べてみたら何かしら多少ものになるような結果が得られはしないかと考えるのである。
 このような研究はあるいは実験心理学上の一つの題目にならない事もなさそうに思われる。あるいはもう誰か試みた人があるかも知れないと思われる。
 尤もこういう研究が仮に出来上がったとしたところで多くの歌人には何の興味もない事ではあるかも知れないが、しかし歌人にして同時に科学者であるような人にとっては少なくも消閑の仕事としてこんな事をつついてみるのも存外面白いかも知れない。
 口調がよくてもいい歌とは限らず、口調が悪くてもそのために却って妙味のある歌もあるかも知れないが、歌の音楽的要素を無視しない限り口調の研究は一般の歌人にも無駄な事ではないであろうと思う。
 以上は口調というちょっとつかまえ処のないようなものを何とかして系統的に研究しようとする方法の第一歩を暗示するものだとして見てもらわれれば仕合せである。
[#地から1字上げ](大正十一年三月『朝の光』)



底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店
   199
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