科学上における権威の価値と弊害
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)門外から窺《うかが》い見て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)近頃|流行《はや》る高山旅行など

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正四年頃)
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 科学上における権威の効能はほとんど論ずる必要はないほど明白なものである。ことに今日のごとく各方面の科学は長足の進歩を遂げてその間口の広い事、奥行の深い事、既往の比でない。なかなか風来人が門外から窺《うかが》い見てその概要を知る事も容易ではない。のみならずおのおの独立の名称を有《も》っている科学の分派、例えば物理とか化学とかいうものの中にまた色々の部門がおのおの非常な発達をしている。たとえ日進月歩の新知識を統括する方則や原理の数はそれほど増さないとしても、これによって概括せらるべき事実の数は次第に増加して来るばかりである。従って勢い物理学の中でもだんだんに専門の数が増加しその範囲が狭くなる。この勢いで進んで行けば物理学を学修するという事はなかなか困難な事になる。人間
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