科学者とあたま
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)曖昧《あいまい》不鮮明
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)尋常|茶飯事《さはんじ》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和八年十月、鉄塔)
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私に親しいある老科学者がある日私に次のようなことを語って聞かせた。
「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という命題も、ある意味ではやはりほんとうである。そうしてこの後のほうの命題は、それを指摘し解説する人が比較的に少数である。
この一見相反する二つの命題は実は一つのものの互いに対立し共存する二つの半面を表現するものである。この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関する定義の曖昧《あいまい》不鮮明から生まれることはもちろんである。
論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体と
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