ものである。それが近代科学の基礎として採用され運用されるようになって以来いっそうの検討と洗練を加えられて、今日では昔の人の思い及ばなかったような複雑でしかも整然と排列された一大系統を成している。もっともそういう方法は普通の科学の教科書には、あらわにはどこにも書いてない。ただ具体的な実例の取り扱いの中に黙示的に含蓄されているだけである。たとえば、ある一つの現象がたくさんの因子の共存的効果によって決定される場合に、いかにして各個の因子の個々の影響を分析すべきかというような問題に対するいろいろの方法が示されている。そういう場合にこの方法の中から、あらゆる具体的なものを取り去った場合にそこに抽象的な認識の形式が残る。すなわち、ただ一つだけの因子が有効で他のすべての因子が無効な場合におけるその一つの因子の及ぼす効果だけを知れば、それらの個別的効果の総和が実際の共存的場合の効果を与えるか、というと、決してそうばかりでないということが科学上の実例にはいくらもある。すなわち異なる因子の相乗積が参加する場合がそうなのである。それだのに世の中ではそういう、科学者には明白な可能性を無視した考え方が普通に行な
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