猿の顔
寺田寅彦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和八年四月『文芸意匠』)
−−

 映画「マルガ」で猿の親子連れの現われる場面がある。その猿の子供の方が親猿のよりもずっとよく人間に似ている。しかも、それは人間のうちでも老人の顔に似ている。そうして老翁よりはより多く老婆の顔に似ているのである。それで、人間が非常に長生きをしたらだんだん親猿に似て来るかと思って考えてみる。西洋の絵入雑誌などに時々現われる百歳以上の婆さんなどには実際かなりに親猿のような顔をしたのもあることはある。
 動物が年を取るほど高等になると仮定する。そうして一方ではまた、人間が年をとって後にだんだん猿の子供に似て来るとする。すると、もしかしたら、猿の方が人間よりも高等だということになりはしないか。
 反対に、猿の方が人間より劣等だとすると、猿も人間も年を取るほどだんだん劣等になるのだという事になりはしないか。
 これは顔だけから見た人猿優劣比較論であり、老若賢愚比較論である。
 これに似た比較論が世間では普通に行われてい
次へ
全2ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング