私は軽卒にこの実験を人に強《し》うる気はないが、ともかくもまず自分で試みたいという希望はもっている。しかし現在の旬刊や週刊が依然として日刊と並行して出ている限り、またその編集方法が私の考えているのと同一でないとすると、結局私の考えている思考実験は到底実行する事はできそうもない。
 日刊全廃というような問題を直ちに実行問題として考えるという事はあまりに現実を無視した痴人の夢であるかもしれない。しかし前にも述べたように、これをともかくも一つの思考実験としてできるだけ慎重に徹底的に考えてみるという事は、新聞読者にとってもまた新聞当事者にとってもかなりおもしろくもありまた有益な仕事であるに相違ない。そしてその結果はおそらくだれにもなんらの損害をも与えるような性質のものではないと信じている。
[#地から3字上げ](大正十一年五月、中央公論)



底本:「寺田寅彦随筆集 第二巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
   1947(昭和22)年9月10日第1刷発行
   1964(昭和39)年1月16日第22刷改版発行
   1997(平成9)年5月6日第70刷発行
入力:(株)モモ
校正:かとうか
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