参考になり、少なくも心理学者の研究材料ぐらいにはなる事が多い。それで日刊廃止の場合にこれに代わるべきものの社会記事はできるだけ純客観的で科学的であってほしい。そういう意味で有益なおもしろい記事をタイムス週刊の第一ページや処々の余白の埋め草に発見する事がある。
もしかりに私がこのような週刊や旬刊の社会欄を編集するとしたらどういう記事をおもに出すだろうと考えてみた。人殺しや姦通《かんつう》などを出すとしても、それらはなるべく少なくそして簡単にしたい。書くならばできるだけほんとうの径路を科学的に書く事によってすべての人の頭の奥に潜む罪の胚子《はいし》に警告を与えるようなものにしたい。しかしそういう例外な事件の記事よりも、日常街頭や家庭に起こりつつある、一見平凡でそうして多数の人が軽々に看過していて、しかも吾人の現在の生活に対して重要な意味のあるような事実を指摘し報道して、いくらかでも人々の精神的の幸福を増し不幸を予防するように努めるだけは努めたいものである。
裏町の下水に落ちている犬を子供が助けてやった事実でも、自転車が衝突して両方であやまっていた実例でも適当に描かれれば有意義である。公
前へ
次へ
全27ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング