一つの思考実験
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)椅子《いす》やテーブルが

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)邪教|淫祠《いんし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](大正十一年五月、中央公論)
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 私は今の世の人間が自覚的あるいはむしろ多くは無自覚的に感ずるいろいろの不幸や不安の原因のかなり大きな部分が、「新聞」というものの存在と直接関係をもっているように思う。あるいは新聞の存在を余儀なくし、新聞の内容を供給している現代文化そのものがこれらの原因になっていると言ったほうが妥当かもしれないが、それはいずれにしても、私はあらゆる日刊新聞を全廃する事によって、この世の中がもう少し住みごこちのいいものになるだろうと思っている。
 新聞を全廃したらさだめて不便な事であろうと一応は考えられる。その不便を感ずる種類や程度はもちろん人々の位地や職業によっていろいろであろうが、不便ということに異議はなさそうである。しかしそれらの不便がどれだけ根本的な性質のものでどれだけ我慢のしきれない種類の
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