でも実によく知っているルーベンスの傍に、無邪気で気軽く明るいプランクがいて、よくわれわれでも知っているような実験的の事実を知らないで質問する、若い連中が得意になってそれを説明するのを感心して謹聴していた。純真な性格にもよるであろうが、しかし一方で誰にも負けないだけの長所をもち、そうしてそれを自覚している人でなければこれほど無邪気にはなれまいと思ったことであった。後年アインシュタインに対する反ユダヤ人運動でひどく器量を悪くしたゲールケはやはり一座の中でいちばん世間人らしいところがあった。若くて禿頭の大坊主で、いつも大きな葉巻を銜《くわ》えて呑気《のんき》そうに反りかえって黙っていたのはプリングスハイムであった。イグナトフスキーとかいうポーランド人らしい黒髪|黒髯《こくぜん》の若い学者が、いつか何かのディスクシオンでひどく興奮して今にも相手につかみかかるかと思われてはらはらしたことがあった。ワールブルヒは腎臓でもわるいかと思われるように顔色が悪く肥大していて一向に元気がなかったが、ゴールトシュタインは高年にかかわらず顔色も若々しく明るい上品な感じのする人であった。プランクはこの人に対してい
前へ
次へ
全16ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング