ピタゴラスと豆
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)枡形《ますがた》の面積が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)内田|百間《ひゃっけん》君の山高帽

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年七月『東京日日新聞』)
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 幾何学を教わった人は誰でもピタゴラスの定理というものの名前ぐらいは覚えているであろう。直角三角形の一番長い辺の上に乗っけた枡形《ますがた》の面積が他の二つの辺の上に作った二つの枡形の面積の和に等しいというのである。オルダス・ハクスレーの短篇『若きアルキメデス』には百姓の子のギドーが木片の燃えさしで鋪道《ほどう》の石の上に図形を描いてこの定理の証明をやっている場面が出て来るのである。また相対性原理を設立したアインシュタインが子供のときに独りでこの定理を見付けたとかいう話が伝えられている。この同じピタゴラスがまた楽音の協和《ハーモニー》と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失
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