って寡頭《かとう》政治を代表するものだから」ともある。
 それはさておいて、ピタゴラスの最期についても色々の説があるがその中の一つはこうである。
 一日ミロにおける住宅で友人達と会合しあっていたとき誰かがその家に放火した。それは仲間に入れてもらえなかった人の怨恨によるともいわれ、またクロトンの市民等がピタゴラス一派の権勢があまり強すぎて暴君化することを恐れたためともいわれている。とにかくピタゴラスはにげ出して行くうちに運悪く豆畑に行き当った。そこでかれは、戒律を破って豆畑に進入するよりは殺された方がましだといって逃走をあきらめた。そこへ追付いた敵が彼の咽喉《のど》を切開したというのである。
 一方ではまた捕虜になって餓死したとか、世の中が厭《いや》になって断食して死んだとか色々の説があるから本当のことは何だか分らない。しかし豆畑へはいるのがいやでわざわざ殺されたというのが本当だとすると、それは胃に悪いとか安眠を害するとかいうだけではなくて、何かしら信仰ないし迷信的色彩のある禁戒であったであろう。
 このピタゴラスの話がまるで嘘であるとしても、昔のギリシャかローマに何かそれに類する「禁戒
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