ステッキ
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)杖《つえ》がつきものに

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(例)[#地から2字上げ](昭和七年十一月、週刊朝日)
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 初めは四本足、次に二本足、最後に三本足で歩くものは何かというなぞの発明された時代には、今のように若い者がステッキなどついて歩く習慣はなかったものと思われる。杖《つえ》がつきものになっている魔法使いはたいていばあさんかじいさんであるが、しかし彼らの杖はだいぶ使用の目的が違っていて、孫悟空《そんごくう》のなんとか棒と同様にきわめて精巧な科学的内容をもっていたものと思われる。シナの仙人《せんにん》の持っていた杖は道術にも使われたであろうが、山歩きに必要な金剛杖《こんごうづえ》の役にも立ったであろう。羊飼いは子供でも長い杖を持っているが、あれはなんの用にたつものか自分は知らない。牧羊者の祖先が山地の住民であったためか、それとも羊を追い回しおおかみでも追い払うために使われたものか、ともかくもいわゆるステッキとはだいぶちがったものである。それから雲助の息杖《いきづえ》とい
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