ると云うだけではないことがわずかに一時間半ばかりの見学でよく分ったような気がした。この日M君N君の解説を聞いたことだけから考えても、すべての芸道に共通な要領がゴルフの術にも要求されていることが分る。一番大事なものはやはり心の自由風流であるらしい。
人間が球を飛ばせたり転がしたりする遊戯の種類が一体どのくらいあるか数え切れないほどあるらしい。近代的のものでもゴルフの外に庭球野球|蹴球《しゅうきゅう》籠球《ろうきゅう》排球などがあり、今は流行《はや》らぬクリケット、クロケーから、室内用にはピンポン、ビリアードそれから例のコリントゲームまである。日本の昔でも手鞠《てまり》や打毬《だきゅう》や蹴鞠《けまり》はかなり古いものらしい。
人間ばかりかと思うと、猫などが喜んで紙を丸めたボールをころがすのが、なんら直接功利的な目的があってするとは思われないから、やはりスポーツの一種らしく思われる。尤もこれは結果から見ると鼠を捕えたりするときに必要な運動の敏活さを修練するに有効かもしれない。家畜の糞を丸めてボールを作り転がし歩く黄金虫《こがねむし》がある。あれは生活の資料を運搬する労働ではあろうがとに
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