イタリア人
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)用達《ようた》しに出掛けた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今日|七軒町《しちけんちょう》まで

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)耳を※[#「奇+支」、第4水準2−13−65]《そばだ》てさせる

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つかまえよう/\としていた。
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 今日|七軒町《しちけんちょう》まで用達《ようた》しに出掛けた帰りに久し振りで根津の藍染町《あいぞめちょう》を通った。親友の黒田が先年まで下宿していた荒物屋の前を通った時、二階の欄干に青い汚れた毛布が干してあって、障子の少し開いた中に皺くちゃに吊した袴が見えていた。なんだかなつかしいような気がした。黒田が此処《ここ》に居たのはまだ学校に居た頃からで、自分はほとんど毎日のように出入りしたから主婦とも古い馴染《なじみ》ではあるが、黒田が居なくなってからは妙に疎《うと》くなってしま
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