の力で積極的にどこまで進めるかにある、と著者は云っている。これに対するアインシュタインの考えは試験嫌いの彼に相当したものである。「競技《スポルト》かなんぞのようにやる天才養成」(〔quasisportma:ssig gehandhabte Begabetenzu:chtung〕)はいけないと云っている。結果はいかもの[#「いかもの」に傍点]か失敗かである。しかしこの選択も適度にやれば好結果を得られない事はあるまい。これまでの経験ではまだ具体的な案は得られないが、適当にやれば、従来なら日影でいじけてしまうような天才を日向《ひなた》へ出して発達させる事も出来ようというのである。
著者はこれにつづいて、天才を見付ける事の困難を論じ、また補助奨励と天才出現とは必ずしも並行しない事などを実例について論じている。そして一体天才の出現を無制限に望むのがいいか悪いかという根本問題に触れたところで、アインシュタインの独特な社会観をほのめかしている。しかしこれらの点の紹介は他の機会に譲ることにしたい。
[#地から1字上げ](大正十年七月『科学知識』)
底本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店
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