える。しかし如何なるアカデミックな大家にも劣らぬ古典的な仕事をした。彼は「英国の田舎貴族」と「物理学」との配偶によってのみ生み出され得べき特産物であった。吾々は彼の生涯の記録と彼の全集とを左右に置いて較べて見るときに、始めて彼の真面目《しんめんもく》が明らかになると同時に、また彼のすべての仕事の必然性が会得されるような気がする。科学の成果は箇々の科学者の個性を超越する。しかし一人の科学者の仕事が如何にその人の人格と環境とを鮮明に反映するかを示す好適例の一つを吾々はこのレーリー卿に見るのである。
 冒頭に掲げた写真(省略)は一九〇一年五十九歳のときのである。マクスウェルとケルヴィンとレーリーとこの三人の写真を比べて見ると面白い。マクスウェルのには理智が輝いており、ケルヴィンのには強い意志が睨《にら》んでおり、レーリーのには温情と軽いユーモアーが見えるような気がする。これは自分だけの感じかもしれない。
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[#地から1字上げ](昭和五年十二月、岩波講座『物理学及び化学』)



底本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店
   1997(平成9)年5月6日発行
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