ろうと計画していた研究の一つは、主要なガス元素の比重を精密に測定してブラウト方則を験しようというのであった。これは何でもないようでなかなかの大仕事であった。レーリーの手一つでは間に合わないので、ケンブリッジの助手前記のゴルドンを呼び寄せた。彼は家族を挙げてターリングの邸内に移り、死ぬまでここでレーリーの片腕となって働いた。村人は時々「旦那様の遊戯部屋」の「実験室」についてゴルドンに質問し "That ain't much good, is it?" などと云った。
 ガス比重測定は、一八四五年レニョー(Regnault)の発表したもの以来誰もやらなかった。レーリーはレニョーの実験における浮力の補正に誤りのあることに気付いたので、もう一度詳しくやり直す必要を感じたのである。
 地下室の中に作った天秤室《てんびんしつ》の空気を乾かすのに、毛布を使ったりしたところにレーリーの面目が現われている。二つのガラス球の容積の差を補正するために添えたU字管に、眼に見えぬくらいの亀裂があったのを気付かないでいたために不可解な故障が起って、ほとんど絶望しかけたとき、珍しい低気圧がやって来て、その時の異常な結
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